認知症介護の向き合い方
目次
- ○ 認知症ってなんでしょうね
- ・認知症の症状「行動・心理症状」
- ・主な認知症の種類とその特徴
- ・アルツハイマー型認知症
- ・血管性認知症
- ・レビー小体型認知症
- ・前頭側頭型認知症
- ○ 認知症患者への基本的な対応
- ・まずは様子を見守る
- ・声かけはなるべくひとりで行う
- ・本人の気持ちを考慮しながら介護者も無理のないサポートをする
- ・叱る、命令する、強制するなどの行動はNG
- ○ 認知症が引き起こす症状別の接し方
- ・被害妄想への接し方
- ・暴力的な行動への接し方
- ・行方不明になった場合の対応
- ・失禁への対処法
- ○ 介護に疲れないために家族が心得ておくべき認知症介護。
- ・ひとりで抱え込みすぎない
- ・外部サービスを利用する
- ・否定せず、行動の背景にある理由を考える
- ・周囲と比べない(お互いのために)
- ・少しでも認知症介護疲れの心を軽くするためのポイント
- ○ まとめ
認知症ってなんでしょうね
「認知症」とは、「いったん正常に発達した知能(脳)に何らかの原因で記憶・判断力などの障害が起き、日常生活がうまく行えなくなるような病的状態」を言います。 原因としては「アルツハイマー病」や「脳血管障害」によるものが多く、高齢者の方に多く見られますが、単なるもの忘れとは違って、れっきとした脳の病気です。
認知症では、脳の病的な変化や病気などによる脳の障害により脳の細胞が壊れます。その脳の細胞が担っていた役割が失われることで起こる症状を「中核症状」と言います。
一方、中核症状によって引き起こされる二次的な症状を「行動・心理症状」や「周辺症状」と言います。BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)という略語も使われています。
認知症の症状「行動・心理症状」
認知症が発症して今まで出来ていた事…掃除や洗濯等の家事や趣味で行ってきた活動が、認知症という病が原因で少しずつ上手く出来なくなってきた」
「その方は落ち込みやすく、Aが原因で精神的に不安定になった」それは認知症の中核症状がみられる状態です。
しかし、人には性格があり、失敗を気にしない人もいれば深く落ち込む人もいます。落ち込みやすい性格の方の場合「不安」の行動・心理症状が出てくることもあります。また、自分に厳しく「何故出来ないんだ」と自分を追い込むような性格の方だと「焦燥(焦り・怒り)」に変わる場合もあります。
主な認知症の種類とその特徴
認知症は様々な症状があり、対処にも困ります。
認知症の種類を大きく分けると
・アルツハイマー型認知症
・血管性認知症
・レビー小体型認知症
・前頭側頭型認知症
この4種類となります
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症は、認知症患者の約半数を占めていると言われています。脳の神経細胞が変性して一部が萎縮していく過程で発症し、男性よりも女性の比率が高いのが特徴。アルツハイマー型認知症の原因は、脳の神経にたんぱく質の一種である「アミロイドβ」や「タウ(タウたんぱく質)」が蓄積することと考えられています。
不要になった脳内物質が分解、排出されずに健康な神経細胞の働きが弱まり、脳細胞が死んでしまいます。加齢や遺伝に起因すると指摘されていますが、根本的なことはいまだ不明。発症後はゆるやかに進行していく点が特徴です。
血管性認知症
血管性認知症とは認知症患者の約2割を占めている認知症で、脳の血管障害によって生じるため、認知機能がまだらに保たれていることが特徴。女性よりも、比較的男性に多く見られる症状です。
特定の分野のことはしっかりと認識できる一方、ほかのことはできないなどの特徴から「まだら認知症」とも呼ばれています。
血管性認知症の原因は、脳出血や脳梗塞など脳内血管に起こる何らかの障害とされています。
脳出血の場合は脳内血管が破れて出血。溜まった血液で脳細胞が圧迫され血管性認知症が発症します。
脳梗塞の場合は脳の血管が詰まり、十分な血液が届かなくなった部分の脳細胞が死滅。認知機能が低下します。脳梗塞が起きるたび症状が悪化するため病状にばらつきがあり、突然障害が出たり、落ち着いていたりします。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、アルツハイマー型認知症の次に患者数が多いとされる認知症です。脳の神経細胞が減少することで発症し、40歳頃から症状が現れる方も。男性の発症リスクは女性の約2倍と言われています。
手足の震え、身体のこわばり、歩行障害などが起き、転倒しやすくなるため注意が必要です。特徴的な幻視、うつ症状、睡眠時の異常行動のほかにも、気分や態度、行動がコロコロ変わるのが特徴。
レビー小体型認知症は、レビー小体と呼ばれるたんぱく質のかたまりが、脳の神経細胞を壊すことで起きます。レビー小体は脳に限らず全身の神経細胞に現れるため、大脳皮質にできるとレビー小体型認知症、脳幹に増えるとパーキンソン病になります。
レビー小体型認知症は進行の早さが特徴で、アルツハイマー型認知症や血管性認知症と比べても進行速度が速く、発症後の平均寿命も短いです。
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症は若年層に起こりやすい認知症です。平均的な発症年齢は55歳前後と言われており、国の難病にも指定されています。
前頭側頭型認知症は前頭葉や側頭葉の萎縮が原因で起こります。脳の前頭葉は人格や行動をつかさどる部位なので、発症すると社会的な行動がとれなくなったり感情の抑制がきかなくなったりします。身だしなみに気を配れなくなる方や、暴言が増える方もいるでしょう。
側頭葉は言語をつかさどる部位でもあるため、萎縮がはじまると相手の言葉の意味がわからなくなったり、喋りにくくなったりすることも。遺伝による発症も指摘されている稀なケースの認知症です。
進行速度は人それぞれですが、進行につれて初期の異常行動が弱まり、徐々に無気力になる傾向に。発症してからの平均寿命は6~9年です。
認知症患者への基本的な対応
認知症のケアは、本人がその人らしい生活や人生を全うできるように支えていくことです。そのため認知症を正しく理解して、自分だったらどう生きていきたいかを考えながら、認知症の方への支援を行うことが重要です。認知症の症状に最初に気が付くのは、ほとんどの場合本人です。多くの人は進行していく病状を認識しており、大きな不安を感じています。そのため認知症の方に接するときは、本人の心情に寄り添いながら「①驚かせない ②急がせない ③自尊心を傷つけない」の「3つのない」を心がけましょう。
また、適切な接し方が認知症の状態を安定させたり向上させたりすることにつながるので、以下のことを意識しましょう。
・まずは様子を見守る
・声かけはなるべくひとりで行う
・なるべく明るい気持ちになってもらうようサポートする
・叱る、命令する、強制するなどの行動はNG
まずは様子を見守る
認知症の初期症状は、加齢による物忘れと判断がつきにくい傾向にあります。
物忘れが増えたり、理解力や判断力の低下が見られたりしても、すぐに「認知症」と断定せず、まずは様子を見守ってみましょう。
普段の様子をさりげなくチェックし、加齢による物忘れではなさそうだと判断したら、医療機関や地域包括支援センターなどの然るべき施設に相談することが大切です。
認知症の初期に見られる主な症状
・何回も同じことを話したり、聞いたりする
・物を置き忘れることが増え、よく捜し物をしている
・買い物や料理など、以前はできたことがスムーズにできなくなる
・お金の管理ができなくなった
・周囲の出来事に関心を示さなくなる
・無気力になり、趣味や活動をやめた
・小さなことで怒ったり、疑い深くなったりする
声かけはなるべくひとりで行う
認知症の初期症状は本人も自覚があるため、「もしかしたら認知症ではないか」と大きな不安を抱えています。
恐れと不安を抱いている相手に、複数人で声をかけると、パニックに陥ってしまうおそれがあります。
物忘れなどの兆候が見られるようになったら、家族のうちのひとりが代表して声をかけ、
「驚かせない」
ようにむやみに刺激を与えないよう注意しましょう。
また、話しかけるときは相手の目線に合わせ、なるべく優しい口調で、はっきりと話すことを心がけるのがポイントです。
本人の気持ちを考慮しながら介護者も無理のないサポートをする
認知症かもしれないと自覚することは、本人に大きな衝撃をもたらします。
人によっては塞ぎ込んでしまい、物忘れなどの症状と重なって生活に支障をきたすおそれがあります。
身近にいるご家族にとってもショックの大きい出来事ですが、普段の生活では自然にふるまい、できるだけ明るい気持ちになってもらえるよう配慮しましょう。
たとえば、最近あった明るい出来事を話題にする、写真を見ながら楽しい思い出について語り合うなどです。
心の中の不安を吐露するだけで気持ちが楽になることもありますので、相手の言葉にじっくり耳を傾け、その気持ちを受け止める姿勢を持つといった対応も大切です。
同じ状況ならどう感じるか、どんな気持ちになるか、認知症を発症した本人の気持ちに寄り添ってコミュニケーションをとってみましょう。
叱る、命令する、強制するなどの行動はNG
認知症になると、記憶力や理解力、判断力の低下が見られるため、以前よりも行動が遅れがちになります。
その様子を見ると、つい「なぜこんなこともできないの」「もっと早くして!」とイライラしてしまいがちですが、激しく叱ったり、責めたりすると、相手が心を閉ざす原因となります。
場合によっては認知症の症状がさらに進行してしまう可能性もありますので、自尊心を傷付けるような行動は控えましょう。
失敗しても否定したり叱ったりせず、不安になるような話し方や行動は極力避けましょう。
その上で、本人が心からくつろげる環境を整えたり、喜びや安心につながるコミュニケーションをとるなど、焦らずゆっくり信頼関係を築きましょう。
認知症が引き起こす症状別の接し方
敬意を持って接する
認知症の方と接するとき、つい「なぜこの程度のことができないの?」といった感情を持ってしまうこともあるでしょう。ただし、このような感情を言葉や態度に出すと尊厳を傷つけてしまい、関係が悪化しコミュニケーションが取りづらくなることもあります。ストレスを感じることがあっても、それをぶつけるのではなく、自分の感情はそっとしまって敬意をもって丁寧な言葉・態度で接するように意識しましょう。
相手を受け入れる姿勢で接する
言葉でのコミュニケーションが上手く取れない場合でも、表情から感情を読み取れることがよくあります。認知症の方と話をする際には相手の表情をしっかり見て、今どう感じているかを理解するように意識してみてください。また視覚から得られる表情以外にも手の握り具合や声のトーンなども感情を察知できるので五感をフル活用しましょう。
相手を受け入れる姿勢で接する
認知症になると、自分の感情を上手く言葉で表現することができなくなることがあります。そういった状態がストレスとなり、暴言・大声を出す・興奮するといったことも少なくありません。認知症の方がこのような状態になっても、できるだけ相手の感情に寄り添い、受け入れる姿勢で接するようにしましょう。興奮が強い場合は話題を変えたり、そっと見守るなど配慮も必要になります。
被害妄想への接し方
「誰かが自分の悪口を言っている」「物を盗まれた」などの被害妄想も認知症の代表的な症状です。
このような症状が出ている際には、内容自体には意味がなく
内容自体には意味がなく単に共感してほしい・話を聞いてほしい・何かに不安を感じている
ということがほとんどです。話の内容を否定するのではなく、本人の主張に耳を傾けてあげるようにしましょう。
暴力的な行動への接し方
暴言を吐かれたり、叩く・突き飛ばすといった暴力的な行動を取られたりした場合は、とにかく相手の気持ちを落ち着かせることを優先しましょう。
ひどい言葉をぶつけられると悲しい気持ちになりますが、言い返したり、力尽くで抑えたりするとますます激昂する可能性もあるので
「どうしたの」「なにかあったの」「何に怒っているのか聞かせて」などと声をかけ、気持ちを少しでも鎮静化させることが大切です。
行方不明になった場合の対応
突然の外出や深夜徘徊といった症状が出てくると、リスク管理のためになるべく外に出ないようにしたくなることもあるでしょう。ただし、外出をさせずに家に閉じ込めてしまうと、よけいに家から出ようとしたり、「家に閉じ込められた」という恐怖からさらなる徘徊につながってしまうこともあります。
24時間家族が見張っているのも難しいので、もしもの場合を考慮し、名前や連絡先を記載したタグなどを身につけさせるなどの工夫をとり入れましょう。
ご近所の方に事情を話し、うろうろしているのを見かけたら報せてほしいと協力を仰ぐのもひとつの方法です。
失禁への対処法
トイレの失敗は、本人にとっても大変ショックです。そのため自尊心を傷つけないような心遣いが大切です。中には失敗した恥ずかしさから汚れた下着をタンスに隠しているようなケース、さらに隠したことも忘れてしまっているケースがあります。
介護者としても対応が大変な場面ですが、汚れた下着やトイレの始末はそっと行うようにしましょう。
また、失敗を未然に防ぐための対策として、場所がわからなくならないように大きく「トイレ」と張り紙をしたり、定期的に「トイレに行こうか?」と声掛けをしたりしましょう。
夜間に失敗が多いケースでは暗いところを怖がっていることがあるため、トイレまでの経路は夜でも照明をつけるなどの工夫が効果的です。
介護に疲れないために家族が心得ておくべき認知症介護。
認知症の方の介護は心身共にに大きな負担がかかります。
そして介護する側の日常生活に支障をきたす原因となります。
認知症は完治することなく、長期戦のリスクも高い症状になります。認知症の人を介護することはとても負担が大きく、ストレスをためやすくなります。認知症介護にめぐり、痛ましい事件が起きることもあります。
身内の介護を行うようになったら、介護疲れが深刻化しないよう、自身の心や身体の負担を軽減する工夫を取り入れる事・周りに協力を得る事が大切です。
ひとりで抱え込みすぎない
一番に考えることは独りで抱え込まないことです
兄弟が複数いるなら、曜日ごとに担当を決めるなどして、負担が一人に集中しないようにします。遠くに住んでいてなかなか訪問できないなら、その分お金を出すなどの代替策をとってもらいましょう。
一人っ子でどうしても負担が集中せざるを得ない場合でも、本人の友人関係や担当ケアマネジャー、介護家族の会など、相談できる人や場を持って一人で抱え込まないように。悩みを誰かと共有するだけでも、ずいぶんストレスを軽くすることができます。
外部サービスを利用する
介護する側にも自分の生活がありますので、たとえ交代制でも家族だけで介護のすべてをするのは困難です。
現在は公的・民間含めてさまざまな介護支援サービスが提供されていますので、上手に活用して家族の負担を減らしましょう。
65歳以上の人は要介護状態や要支援状態と認定されれば、介護保険の適用により、介護支援サービスの費用負担を軽減できます。
否定せず、行動の背景にある理由を考える
認知症介護をしていて行動など理解できないことが多くあり介護者は疲れてしまい、怒りや否定の日々になることもあります。
認知症介護をしていてイラつくのは当然の事なのです、イラつくことに罪悪感を持ってしまう人もいますが罪悪感を持たなくていいのです。
認知症患者は感情のコントロールが出来なくなっていますそのため認知症の方は、周囲から見ると突飛な言動を取りがちですが、そこには当人なりの理由や背景が存在します。
頭から否定したりせず、なぜこういう行動を取るのか、どんな背景があってこうした言葉を発するのか、冷静に分析してみましょう。
ある程度、理由や背景がわかってくれば、適切な対応の仕方も判断しやすくなります。
周囲と比べない(お互いのために)
認知症の進行度には個人差があり、緩やかに進行する方もいれば、急速に症状が悪化する方もいます。
10人いれば10通りの進行の仕方です、周りと比べることは出来ません。
人と比べることは、認知症の方ではない健康な人でもしません。その人はその人なのです認知症の介護をしていると楽な認知症の介護をしている方(聞いただけで内情は分からないものです)認知症の進行が緩やかで介護も楽に感じられる方の事ばかりが耳に入りやすく、重度の方は寝たきりでいいねと自分だけが不幸の真っただ中にいる気持ちになる方もいらっしゃいます。
それでも、他の方が見た時あなた自身が思ったことを思われるかもしれません。
他の事例と比べて一喜一憂するのはあまり意味がなく、むしろ本人や介護する家族を追い詰める原因となる場合が多いので、比較はしない方がいいと思います。
少しでも認知症介護疲れの心を軽くするためのポイント
認知症介護で疲れてしまった心を軽くするためには、
・介護保険外サービスの利用
・介護施設への入居、認知症の専門医への相談
・ネガティブな感情や悩みを共有できる相手を見つける
これまでとは違ったアプローチで介護に向き合うことがポイントです。
義務感や罪悪感を手放し、出来る範囲の認知症介護をする
こんな気持ちが介護者の心のケアに効果的です。
まとめ
一番大切なことは
一人で溜め込まない
「家族が介護をするのは当たり前」という意識から、毎日介護を頑張っても、その頑張りを認められる機会はなかなかありません。
そうすると 「こんなに頑張っているのに」 という思いからストレスが増大してしまいます。
ストレスで体調を崩す前に、家族と介護の分担を変えるなど、一人で溜め込んで、頑張りすぎない環境になるよう状況を見直してみましょう。
家族や地域包括支援センター、ケアマネジャー、主治医、介護施設などと相談し、無理なく続けられる介護の環境を作ることが大切です。
特に、介護者は毎日介護に追われ休む時間がありません。時には休息(レスパイトケア)をして、ストレスや疲れから解放されましょう。
レスパイトケアには、デイサービスやショートステイなどがあります。このようなサービスを積極的に利用することをおすすめします。
介護中にイライラしてしまったら、その場を離れて、短時間でできるリフレッシュ方法を試してみましょう。
お茶を飲んだり、お菓子を食べたりするだけでも気分が切り替えられます。また、花や香水などのいい香りを嗅ぐこともリフレッシュになります。
いずれにしても、介護する部屋から離れ、自分の時間を過ごすことが大切です。